誰もを好きでいなければいけないのか/ブライアン
電車は着いた。扉が開く。人の波が押し出される。彼女や彼は人の波を掻き分けて歩く。誰のことも気にしなくては良いのだ、と言わんばかりに。電車の扉は閉まる。わずかにでも人と人の間にスペースが生まれる。電車は走り出す。本を取り出す。妻は会社で何を話しているのだろう。真っ暗な地下鉄のガラス窓に顔が映る。変わらない顔だった。カバーを裏返しにした本のページを開く。他人を気にしないで生きる、と言い切ったのは誰だっただろう。好きになる必要なんかない、とそういったのは誰だっただろう。文字を追った。文字の意味が溶けていく。コンクリートが闇に映っている。正当な権利だった。だが、何に対してだろう。乗換えをする駅。電車は止ま
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