誰もを好きでいなければいけないのか/ブライアン
止まる。扉が開く。電車から降りた。歩く。次の電車へ乗り継ぐために。仕事のことを考えていた。しなければいけないことを。コートを着た女性から冬の匂いがした。学生時代の思い出の匂いだった。イチョウの広場。女の子は香水をこぼした。彼女は付き合っていた友人から顔をそらした。寒い日だった。彼と彼女は別れた。二人は口を利かずに黙っていた。イチョウの広場にはイチョウの葉はなかった。みな落ちてしまった後だった。ベンチに座っていた。彼も彼女も俯いたままだった。二人とも何か考えていたのかもしれない。透き通るような青い空だった。けれど、二人には不必要だった。二人に必要だったのは、落ちた葉が腐れていく土の温かさだった。カラスが鳴いていた。
長いエスカレーターを上っている。コートの女性から流れる匂い。誰もを好きでいたかった。傷つけないためにだっただろうか。誰もを傷つけようとしていたのだろうか。風を受ける。冷たさを感じる。
それでもなお、
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