恋愛詩の教科書として読む『黒田三郎詩集』/イダヅカマコト
 
理の力技をこなしてしまったかのように見えます。

もっと凄いのは『そのとき』です。
この抽象的な詩では恋人の描写すらありません。
 確かに恋人は書き手を「あっと言う間もなく/この世の行列から押し出した」と書いています。
 その行列は「死ぬ順番を待って/この世に行列を作って」会社の食堂の食事の順番、または死ぬ順番を待つ行列です。そして、書き手は「ぼんやりと立って」いるだけです。
 彼女が何をしたかはかかれていません。ただ、「恋人が彼を特別な存在にする」ということは分かります。
 そしてこの詩は「恋人が彼を特別な存在にする」ということが分かっただけでお腹いっぱいになります。

 黒田
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