爆裂(上、前)/鈴木
 
ンション」C棟・四○一号に住んでいた頃のことだ。
 日曜日だというのに年末商戦どうのこうのと両親不在の部屋で五歳の彼は、与えられた教材でひらがなの読み書きをとっくに習得し終えまた五十音を擬人化し、戦士「あ」を筆頭とする正義の戦隊と魔人「ん」が率いる悪の軍団の戦争が一段落した地上を遊び人「や」や吟遊詩人「ゆ」あるいは不老の仙人「も」と一緒に歩きブラウン管の及ぼす影響について考察していた。かつて多様だった己の世界がヤツのせいで一律化し近頃では二項対立の諍いが続きいささか安直すぎると感じていた。一方で画面を通して報じられる強大な「正義」への憧憬も抑えきれず、やがてふくよかな頬の片側を床にこすりつけてう
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