回転する蜻蛉/しめじ
 
れで人魚の肉をはさんで食べ始めた。油が浮かぶ炙り目に歯を立てると、祝詞のような歌声が聞こえてくる。中性的な歌声。煙は高く上り雲との境がなくなっていく。斑猫は女の食べかすにありついては、鱗をはき出していた。
 漁師はぐい飲みをコマのように回して笑っていた。女は相変わらず洗濯バサミで器用に人魚の肉を啄んでは、酒を煽っていた。

 やがて一升瓶の中の酒がなくなり、月は中天に登る。漁師は女に別れを告げて家に帰った。

 家に灯りは灯っていない。静まりかえった家中に漁師がついた溜息が充満する。仏間に並べられた遺影。その数は今年八十を越した。そろそろ置き場がないなと思いながら、床につく。

 翌
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