秋ざれ/三州生桑
十号の暗い抽象画が掲げられてゐた。
当時、先生は東京の或る大学の研究室から招聘されてゐたが、奥さんは東京行きに反対されてゐた。先生は大いに乗り気だった。「普通、旦那が出世するのを喜ぶものぢゃないのかなぁ」と先生はつぶやかれた。奥さん曰く、私はこの家に嫁いで来たのです、あなたのご両親の老後の面倒を見る覚悟もあります、だけど一つだけ条件があったはずです、アトリエを作って下さるといふこと・・・。私は見たことがなかったが、あの広い家のどこかに、奥さんの秘密のアトリエがあるはずだった。
「どうして結婚したんですか?」と、ぶしつけに問ふと、先生は苦笑しつつ「惚れてたんだよ」と仰しゃった。街は、いつの間
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