秋ざれ/三州生桑
千家の茶の湯を習はれてゐる。何度か御宅の茶室で、茶を立てて戴いたことがあった。確かに、毎日のおさらひに、一々高価な茶碗を持ち出すのは面倒かも知れない。案外よい贈り物であったかと嬉しくなった。
私は先生の奥さんを知らない。結婚式の折りに、ヴェールをかぶった後ろ姿を拝見しただけである。その後、結婚を機に新築された御宅に何度御邪魔しても、不思議と奥さんには会へなかった。先生の仕事を手伝ふために、御宅に泊まることもあったのだが、それでも奥さんの気配すら感じられない。奥さんは画家だと聞いた。芸術家は、人とは違ったところがあるのかも知れない。檜の香りの漂ふ玄関には、奥さんの師にあたる方から贈られた、五十号
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