「兎」/菊尾
な声。
振り返って辺りを窺うが誰かがいる気配はしない。暗闇なので僕の感覚も鈍化しているのだろうし何よりも酔っているし、自分の五感は今完全に当てにならない状態であった。
そこで改めて気がつく。そうか、僕は酔っているんだ。もういい。帰ろう。
そう思うと即座にその声の持ち主が慌てた様子で語りかけてきた。
「いえいえ、しばしお待ちを。すぐに終わるのでどうかそのままで居て下さい。」
そんな事言われてもなんだか薄気味悪いし、と戸惑う僕を尻目にその声の持ち主(恐らく兎なのだろうが)は続けて言う。
「折り入って相談があるのです。」
まさか真夜中の飼育小屋で兎から相談事を持ちかけ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)