共感装置の勝利/岡部淳太郎
いて
叫んじゃった
船長 おれだ 忘れたかい?
ほんと?
ほんとさ
…………
沈みそうね
夕日
(辻征夫「落日――対話篇」全行)}
ここに挙げた二篇は、まぎれもなく現代詩の中にある詩として認知されてきたものだ。ごらんのように、二篇とも難解とはいいがたい。むしろあまりにもわかりやすい作品であり、そのわかりやすさのために読み手にとっての間口が広い作品だと言える。しかし、このわかりやすさははっきり言えば意匠としてのわかりやすさであって、これらの詩が現代詩であるとされているのはそういうところにあるのではない。現代詩の難解神話を信じる者に対して、現代詩にはこんなにわかりやすい詩もあり
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