林檎愛好/木屋 亞万
 
愛しそうに眺めては、彼のみがわかるタイミングでその果実を口にする。
その後も現代のアダムは林檎畑に赴き、赤く実った林檎をもぎ取っては、ハンカチで磨いていた。彼の持つ林檎はいつだって、赤く光っていたので、彼が果粉の着いた林檎を持っているところを誰も見たことがなかった。彼の左手にはいつも輝く林檎、右手には白いハンカチ。それは彼のトレードマークであり、もはや彼の一部でもあった。


 今更ではあるが、現代のアダムと私は友人関係にあった。その私が知る限りでは、彼は自分の先祖がアフリカにいた類人猿であることを嫌がった。彼は本当ならばイヴを始祖だと言いたかったのだろうが、それはイヴの伴侶になるという夢
[次のページ]
戻る   Point(1)