林檎愛好/木屋 亞万
遠く、その溝は天の川よりも深い。何よりイヴの心は現代の誰をも映し得ないという事実があった。それでも現代のアダムはそれを補って余りある愛に充ちていたのだ。
現代のアダムはその有り余る愛で、一方的にイヴを包み込んでいった。そして彼はただ一つ、イヴの周辺にも存在し、彼の周りにも存在しているものに行き当たった。林檎だった。その結果イヴの物語を子々孫々に伝えている宗教には目もくれず、林檎に対して一直線の愛好を示すこととなった。こうして彼は、林檎をいつも持ち歩いては、丁寧にハンカチで磨き続けた。座っているときはいつも林檎を磨いていたし、立ち止まっているときもほとんどの場合、林檎を磨いていた。林檎を愛し
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