夏の終わりに吹く風に 2/十重山ハルノ
 
まり得意じゃなかったさ」と、窓の方に顔を向けたまま言った。
 
 窓を開けると、咽返るようなアスファルトの匂いがした。私が、彼の上に飛んでしまったタバコの灰を払った後に、彼は「ごめん、ここで」と言って、静かに車から降りていった。私は彼の背中に「ありがとう、」とだけ伝えた。自分の声が、どれくらい出ていたかは分からなかった。もしかしたら、声すら出ていなかったかもしれない。辺りには、あいかわらず風が吹いていた。蒸し暑い空気をかき混ぜるだけの風の中に、一陣だけの冷たい風が頬をなぞっていった。と、同時に携帯が鳴った。夫からのメールだ。送信日時は日をまたいでいて、9月1日になっていた。夫からのメッセージを
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