イワン・デニーソヴィチの一日/パンの愛人
し囚人がお互いにいがみあうことがなかったら――ああ!……}
これは囚人にとっての実感であろう。敵は権力者層にいるのではない。上にいる者ではなく、横に並んでいる者が最大の敵なのだ。反権力を標榜する正義が、生活に根を下ろしていない空理空論であることは珍しくない。
あるいは、次の場面はどうであろうか。
{引用= シェーホフ(イワン・デニーソヴィチ)は、すっかり満ちたりた気持で眠りに落ちた。きょう一日、彼はすごく幸運だった。営倉へもぶちこまれなかった。自分の班が<社生団>へもまわされなかった。昼飯のときはうまく粥をごまかせた。班長はパーセント計算をうまくやってくれた。楽しくブロック積みができた
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