ショートショート/水のなかのガラスのように/いすず
 
。二度としないぞ」
紘一郎の、真剣な眼が、笑っていた。

あの言葉を紘一郎が口にして、一周年目。
織姫と彦星とが出会った日、いつもの逢瀬に紘一郎がブーケをくれた。
「忘れてるわけじゃないな?」
「うん。でも、火傷なんかで告白するなんて、おかしな人」
「おたがいさまだろ」
紘一郎は、今でも、口ではけなすけれど眼では笑っていた。

京子は紘一郎の選んだ、シルキーホワイトとレモンとライムグリーンの花束のブーケを手にしている。
隣には、おなじ方角へ帰る紘一郎が、両眼をとじてうつむいて座り、片足を傾げるように組んでいる。
空に懸かる織姫と彦星とが、いちだんと輝いているのが分かる。

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