ショートショート/水のなかのガラスのように/いすず
さっきも、ごくごくありきたりなけんかをしたけれど、
いつものけんかも、あの星たちが見守っているかもしれない。
いつか、どこかで出会っていた二人だと。
座席に背中を預け、目を閉じる。あの時のふたりの真剣さは、
今思うと、こっけいなほどだ。でも、あの時には笑い飛ばせずにいた。
彼はあの時も、変わらないまなざしをしている。
そう思いながら、ゆっくり、がっしりとしたその厚い肩に頭をもたせかけると、
気持ちのいいあたたかさが冷えた車内の空気で冷えた京子の首筋にもつたわる。
そのぬくもりは、気持ちいいほどに安らかだ。
聞こえてくるかすかな、規則正しい、折り目の正しい彼らしい呼吸。
紘一郎がしずかにねむっているのが、分かる。
今日は、もう少し、こうしていよう。
〜Fin〜
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