ショートショート/水のなかのガラスのように/いすず
京子はそのへりにかがんで、茫然と空を見送っていた。
「ガラスかな、あの色は」
タイル張りの水のなかに、それを認めて目を遣ると、紘一郎は京子へ目を移した。
水中ではまだ、彼女からもみえるところで、きらきらとする光が点々と揺らめいている。
「わたしね、欲しいものがあるの」
いつもの御伽話のはじまりのようだった。紘一郎は、彼女に手を延べて、腰掛けていたあたりから
助け起こした。そのぬくもりが、切ない感情を呼び起こした。それは?と彼は訊いた。
「水中にあるキラキラしたもののように、欲しいものがあるの。それは、綺麗だけど、手に取っては
いけないと分かるから。でも、欲しいの」
頭の中で、
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