美しい星/かいぶつ
から雨らしい。
炊飯器のタイマーが甲高い電子音でご飯が炊き上がったことを伝える。しかしそれをしゃもじですくうであろう住人の姿がない。出掛けた痕跡も帰宅する気配も見当たらず、余りにも体温が乏しく閑散としている。外はどうだろう。駅へと続く並木道。いつもなら出社するサラリーマンと学生達の忙しい足音で独特の雰囲気を醸しているはずだが、銀杏の葉がときおり風に吹かれ乾いた音を鳴らすのみで風が止んでしまえば静寂が全ての景色を一息に飲み込んで行く。
誰かが落としていった赤いスコップ。しかし落ちているのはそれだけではなかった。カバンや携帯電話、自転車、傘など並木道は数多もの落し物で埋め尽くされ、首輪から
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