美しい星/かいぶつ
 
から紐を垂らした一匹の犬が植込みに鼻を押し付けクンクンと匂いを嗅いでいるだけの異様な光景なのである。無人の車が渋滞の列をなし、無駄な明滅を繰り返す信号。街全体がまるで安らかに突然死してしまったように沈黙している。

 いったい人はどこへ消えたのだろうか。いったい何故、人だけが世界を置き去りにしたまま忽然と姿を消したのであろうか。先ほどの首輪を付けた犬が植込みから勢いよく鼻先を離し少しぎこちなく二度吠えた。そして何かに気付いたようにどこかへ走り去り、木葉が風にざわめいた。

 ここはとても美しい星。
 それは地球と呼ばれ人間と言葉に支配されていた悲しい星。

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