望郷 / うねる想い/beebee
 


水底に力つき
沈んでいるそれは
たった一人で
この大きな川を遡って来た

独り流れに逆らい
早瀬をむりやり腹で押し渡り
波のうねりを越えて
今は蒼い水深く
静かに休んでいる

躍動する流れを飛び跳ね
大きな石を越えて
独り登って来たそれは
今は力つき
水底に鈍色(ニビイロ)に光る腹を見せ
水面から高く
空を見上げている

黒い眼球はぐるりと廻(メグ)り
静かに思い出す
望郷の想い

若者が漕ぐカヌーが今
彼の上を通り過ぎる

ふっと漏らした水泡を
何の想いか
潜(クグ)らせた若者の手がすくい
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