神と疑似餌/かいぶつ
美しさに
僕はしばらく息を呑み、言葉も出なかった
震える手で女神を抱きかかえたまま
強まる雨の中、神の洗礼を浴びていた
日もすっかり落ちた頃、僕はすでに仕事を終え
帰宅していた父の待つ自宅へ戻り玄関を開けるや否や
大声で叫んだ
「父さん!見てよ、女神だよ!」
中日対巨人戦を観戦していた父はさも関心の薄そうに
「へぇ、それ食えるのか?」
と言ったきり、また額へテレビを映しては
ライトスタンドへ叩きつけられた特大ホームランに喚声を上げていた
興醒めした僕は胸ポケットにしまっていた指輪を
父の後頭部へ投げつけ、跳ね返った指輪は
畳に敷かれた布団の上へ落っこちた
そして女
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