神と疑似餌/かいぶつ
 
て女神を玄関へ置き去りにしたまま
僕は大きく足を踏み鳴らし二階へ上がったきり
居間へ戻ることはなかった

次の日の朝、昨夜は少々やり過ぎたかなと
粛々とした足取りで一階へ降りて行くと
包丁が小気味良くまな板を叩く懐かしいリズムが聞こえた
父は新聞を読んでいる
台所にはエプロン姿の女神の後背
女神は振り返り
「あら、昨日はどうもお騒がせしてすみませんでした。」
左手には指輪が嵌められている
呆気にとられ父へ目を遣ると父は決まりの悪そうな表情をしたまま
何も言わず、新聞から目を離そうとはしない
そういえば昨夜、疲れて直ぐに寝てしまった僕だったが
父が寝ているはずの一階から
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