フレグランスボム/影山影司
 
がなかった」
 鼻を押さえながらS氏は笑ってしまった。
「今思えばあれは、思春期特有の自分に対する不安感だったのかもしれません。生まれつき胃が弱かったとか、歯並びが悪かったとか、色々理由があったような気もしますがただの勘違いだったような気もします。何しろ、自分自身の臭いなんて分からないですからね……まぁともかく、私はその考えを大人になっても持ち続けていた。血が出るまで歯を磨いても不安だった。だんだん体臭も気になり始め、私は日に三本の制汗スプレーを使い、十回は風呂に入った。職場へ行けば同僚の目が気になり、電車に乗れば隣の人が恐ろしかった。私は引きこもるしかなかった。引きこもって、恐怖と戦うしかな
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