ハクチと呼ばれた少女/影山影司
 
なれないのだと僕は知っている。
 腐ったリンゴの樹になるリンゴは当然腐っているのだ。
 だから少女にはこの世の一切を与えたないよう気を配った。
 先ず、屋敷の一室をしろい壁紙で覆った。天井も壁も床も全てつるつるのしろだ。壁紙はぼんやりと輝く特殊なものを選んだ。部屋には一切の影を作らず、遠近感を喪失させることに成功した。
 川を作り噴水を作り池を作った。少女は噴水の下で水浴びすることを好んだ。下流で排泄することも教えた。
 水には定期的に栄養剤を入れていたので彼女は水を飲むだけで生きた。運動を好まず食が細い彼女は、日光など浴びたこともない。病的に美しい。きっと太陽を掲げたとしても少女は影を
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