告知の夜 /服部 剛
 
遠い空の下 
母親の姉は幼い娘と手をつなぎ 
初めて小学校の門に入った日 

職場で交わした 
十年目の契約で 
ようやく正職員になった日 

朗報を伝えようと 
玄関を開いた家は 
何故かがらんとして 

絨毯(じゅうたん)には 
蜘蛛の死骸が潰れ 

箪笥(たんす)の上の 
版画の葉書を入れた小さい額に 
無数の仏は瞳を閉じて坐り 

食卓の上に 
母の書置き 

「 おばちゃんの
  具合が悪いので 
  病院に行きます 」 


  * 


翌日教習所で 
仮免試験に合格して 
朗報を伝えようと 
玄関を開いた
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