『ぬるい包丁』/しめじ
とを耳もとで囁きながら私の身体全身を撫でさする女。私はもう眠くてたまらなかった。女の唇が私の唇に触れた。ぬるぬると生臭い感触。逃げた女も男もどうでもよくなっていた。
いつの間に眠っていたのだろうか。起きると女の姿はなかった。口元を拭うと赤い紅が手の甲に付着した。手を洗おうと流しに行くと逃げた女と男が折り重なって倒れていた。二人とも頭から血を流している。ひっと喉の奥に悲鳴が引っ掛かって尻餅をつく。女の背中には家の包丁が刺さっていた。
とんとんと戸を叩くものがある。この惨状を見られたらことだと思うのだが、腰が抜けて動けない。やがて鍵が回って戸が開いた。
戸の外にはあの女が立って
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