『ぬるい包丁』/しめじ
っていた。女は黙って部屋に入ってくる。外が寒いのか唇が紫色をしている。靴は履いていなかった。
女は死体を見つめる。逃げた女の手にはツユクサが握られていた。女は血まみれの花に唇を這わせる。そして死体の目玉を舐めていた。逃げたいと思うのだが全身の筋肉が重く痺れている。女は振り返り私を見て笑った。真っ赤な紅を差していた。舌先を蛇のように出しながらにじり寄ってくる。声にならない悲鳴を上げて私は気を失った。
気がつくとベッドの上に横たわっている。薄暗い部屋の中には女の姿はない。恐る恐る流しを覗くとまな板の上に包丁とひからびたにんにくスライスが置き忘れてある。死体など転がっていなかった。
三角コーナーににんにくを捨てて包丁を手に取る。柄が暖かい。とんとんと戸を叩くものがある。耳もとがざわざわと騒ぎ出す。やがて鍵が回って戸が開く。
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