『ぬるい包丁』/しめじ
球から電気が走った。私は驚いてベッドから飛び起きた。胸の内側で心臓が暴れる。そんな私を見て女はクスクスと笑った。
逃げた女と男の声が外から聞こえてきた。すぐに台所から包丁を持ちだして外に飛び出す。家の外には靄が掛かっていて一寸先も見えない。舌打ちをしながら手探りで通路を確認する。いきなり後ろからにゅっと腕が伸びてきて首元に巻き付く。白く滑らかな腕。女の腕だ。彼女の体温が首元に伝わってくると急に眠たくなってきた。
「ツユクサにくちづけを」
女はそう言ってしきりに私の眼球に舌を這わせる。女の舌先が触れる度に白い光が頭の中を右から左、左から右へと走り過ぎる。何か訳の分からないことを
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