高田馬場哀歌 /服部 剛
春雨の降る夕暮れ時に
私は傘も差さずに
飲み屋の前で
酔っ払った学生達の
笑い声を背後に
高田馬場駅への道を行く
吉野家の入り口に
貼られたポスターは
先日婚約発表をして
レギュラー奪取に燃える
同い年の松井秀喜が
いつもと違う吉野家のユニホームを着て
手にした桜印の扇子を仰ぐのを横目に
高田馬場駅への道を行く
イヤフォンを入れた
耳に響く
黒人霊歌を聞きながら
昨日までの弱い自分を葬るように
高田馬場駅への道を行く
通いなれたレストランで
密かな愛を抱いていた
ふらんす人形に似た店員の女と
初めて言葉を
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