『狐憑き』/しめじ
 
の笑みは外の笑み方と違った。いつも今にも泣き出しそうな瞳で笑う。私の目をじっと見つめて、瞳を潤ませ笑うのだ。私にはその意味が分からなかった。

 狐の最期はあっけなかった。前足を突っ張るようにして全身を痙攣させ、やがて静かに床に伏した。そしてそのまま動かなくなった。妻は立ったまま動かない狐をずっと見下ろしていた。声を殺して泣いていた。

 妻はひとしきり泣くと私を見上げた。涙で濡れた白い頬を親指で撫でてやる。妻の長い髪は獣の匂いを発していた。はっとして顔を見ると、妻はそれまで見たことがないほど美しい顔で笑っていた。私の手を引くとそのまま床に倒れ込んだ。朱色の帯紐がほどける。妻は熱い息を吐い
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