『狐憑き』/しめじ
吐いた。
「どうにでもなさってください」
私はその夜狂ったように妻を抱いた。
その日から妻はおかしくなった。
妻は軒先に吊してあった風鈴に手を伸ばすと、それを外して人差し指にくるくると巻き付けた。そして縁側に立ってぼうっと立っていた。
「何をしているんだい」
「風を待っているのです。きれいな音が鳴ります」
妻は指先に吊した風鈴をかざして風を待った。冷たい風が通りすぎて涼やかな音が鳴る。その風鈴は私と妻が始めて浅草に出かけた際に一緒に選んだ物だった。瑠璃ガラスの一品物である。指先にそれを垂らしたまま妻は惚けたように風待ちをした。私が「冷たい風しか吹か
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