『狐憑き』/しめじ
どく警戒しているようだった。
狐を慈しむように妻は他人には優しく尽くした。しかし私には底の浅い空虚な優しさしかくれなかった。
「あなたのために今度お料理をこしらえますわ」
「あなたのために今度お手紙をしたためますわ」
「あなたのために今度プレゼントをご用意しますわ」
「あたなのために今度……」
と何度も約束を交わしたがそれが果たされることは一度もなかった。普段家にいる私よりも出先で会う友人や不意のお客さんの方が話していて面白いのだろう。実際彼女は外出している時にはよく笑った。
家の中でももちろん笑う。妻は終始笑顔を絶やさない性格だった。しかし家での笑
[次のページ]
戻る 編 削 Point(1)