記名の呪縛/岡部淳太郎
先行世代の詩人たちと似たような心理で文学に参入してきたのであろうということを失念してしまっているからだ。文学というものは常にそれぞれの個人の異和から始まるはずであり、それは若者であろうと老人であろうと変りはない。彼等もまた井川氏と同じかあるいはそれ以上に真剣に文学と向き合っているのだ。だから、彼等は決して「おじさんたち文学だなんて何いってんの」などと言いはしない。若い詩人たちの文学への思いをたかだかペンネームごときでバカにするなと言いたいくらいのものだ。
井川氏がここで取り上げたペンネーム(筆名)の問題は、たしかにちょっと見たところでは昔に比べて奇妙な響きの名前が増えたように思われるものの、そ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(9)