記名の呪縛/岡部淳太郎
、それは表層的な印象に過ぎないであろう。それでは夏目漱石だとか石川啄木といった筆名は奇妙ではないのか。一種の雅号としての趣きを持つこれらの筆名は文学的にはありであるかもしれないが、一般の人の名として考えると奇妙な名前であることは間違いない。また、「根拠のないペンネーム」と言うが、上村隆一はなぜ鮎川信夫という筆名を選んだのか、松村文雄はなぜ北村太郎という筆名を選んだのか、これらの筆名に第三者が納得しうるような根拠はあったのだろうか。そういうことを検討せずにただ一方的に「若い詩人たち」のペンネームの奇妙さのみをあげつらうのは卑怯であり、まるで説得力がない。
私が最近の若い詩人たちの筆名の「奇妙さ」
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