『雨と目』/しめじ
そういっていっそう強く親指を押し付けてくる。知らないと言いたいのだが、女の親指が邪魔をして何も言うことができない。まごまごしているうちに女は怒ったようになり、唇を噛みしめていた。
「やっぱりこの部屋にあるのね」
そうして私を引きずって文机の前までやってきた。机の引き出しやタンスの引き出しを乱暴に引っ張り、女はここでもない、ここでもないと叫んでいる。窓を見ると降り始めた雨は土砂降りになっていた。街灯が消えている。
いったい女が何を探しているのか皆目検討がつかなかったが、女の顔と声にはどことなく覚えがあるような気がした。怒りで赤みの指した白い頬を盗み見る。去年別れたS子に似
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