『雨と目』/しめじ
わかるのか真直ぐにこちらへ歩いてきた。そして私の手を濡れた手で握った。女の手は冷たいのだか暖かいのだかよく分からない。ただ、白くてとても柔らかかった。
「あなた、あれをどこへやったの?」
女の手が私の頬に触れる。顔はよそへ向けたまま手だけで探っているようだ。しばらくすると親指を口の中に挿し入れてきたので、驚いて女を突き飛ばそうとした。しかし、まるで力が入らない。いつの間にか女に抱き竦められるよう形になってしまった。口の中には女の親指が入り込んでいて、舌がぐいぐいと押されている。女の親指のしょっぱいような酸っぱいような味が口の中に広がって気持ちが悪い。
「早く応えなさい」
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