虚偽と忘却のエピソード/atsuchan69
 
に、焼焦げた車輪がひとつ、そしてまたひとつ落ちた。たちまち、水煙のあがる上空を低く翼を燃やした大型旅客機が旋回し、やがて機首をあげて垂直に傾くと、見るみるうちに推進力を奪われ、大勢の乗客をのせた胴体部は、ちょうどジェットコースターの落下する直前を想わせる逆向きの待機状態で地上からわずかな宙に浮かんでいるのが判る。火を噴き、あがきつづける機体は、もはや墜ちるより他ない姿勢のまま、右の主翼で二度の爆発をおこし、さらに黒い煙をまぜた妖しく華やかなオレンジの獰猛な焔とともに炎上した。
 ベッドを揺らす轟音と地響きとともに、わたしは甲高い女の悲鳴を聴いた‥‥。

 その朝。わたしは出勤まえの慌ただしさ
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