オリオンの唄 〜 亡き友への requiem 〜 /服部 剛
 
はじめて車に乗った日 
すでに僕は30を過ぎていた 

はじめて車に乗った日 
先月25になったばかりで 
自ら世を去った君のことが 
頭から離れなかった 

はじめて車に乗った日 
握ったハンドルは覚束なくて 
教習所のコースでも 
車体は車線をはみだして 

はじめて車に乗った日 
深夜のファミレスで 
テーブルに「運転教本」を開き 
300円のまぜご飯を
夜食代わりにほおばりながら 
誰もいない向かいの席に 
あの日の君を浮かべて 
( 今日は楽しかったよ ) 
と言葉も無く話しかけた 

はじめて車に乗った日 
夜食を終えた帰りの道で 

[次のページ]
戻る   Point(5)