ふたりのはこぶね/あすくれかおす
よく見えない私の耳には、音の粒が、そう、つぶさに流れてくる。
加湿器のかすれた音。
やさしいギターがつま弾く、「ハンナ・ヌーヴォ」という楽曲。
そして夫の食べるひじきの、もくもく。
(世界の生き物たちは雨に閉じ込められて、それぞれどんな気持ちになるのだろう)
ふいに夫がひじきから箸を離して、じっと外を見やる。
それから小さな声でぽつりと、私に言うとも言わないともつかずに呟く。
「もしも神様が俺たちに、方舟を作れ、って言ったらさ。
その方舟に、お前だったら何を乗っけてく?
俺は何を、持っていきたいのかな」
方舟。
洪水の世界は滅び
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