ふたりのはこぶね/あすくれかおす
 
よく見えない私の耳には、音の粒が、そう、つぶさに流れてくる。

加湿器のかすれた音。

やさしいギターがつま弾く、「ハンナ・ヌーヴォ」という楽曲。

そして夫の食べるひじきの、もくもく。


(世界の生き物たちは雨に閉じ込められて、それぞれどんな気持ちになるのだろう)


ふいに夫がひじきから箸を離して、じっと外を見やる。
それから小さな声でぽつりと、私に言うとも言わないともつかずに呟く。


「もしも神様が俺たちに、方舟を作れ、って言ったらさ。
 その方舟に、お前だったら何を乗っけてく?
 俺は何を、持っていきたいのかな」


方舟。
洪水の世界は滅び
[次のページ]
戻る   Point(2)