応接間の < 琴 >/ましろ
 
から何年か経って、
私の住む街、横浜中華街の高級料理店*萬珍楼*でも会った。
関西からわざわざ出てきた祖母の
疲れも・知らない大きな港町への気後れも・喜びも憶えていない。
印象に残っているのは「鯉の美味しさ」。
鯉なんて食べたことも食べられるモノとも思っていなかった。
こわごわつつくだけの私に、母がやさしく「たべてごらん」と促した。
ぱくん。
ふわふわでとびっきりおいしかった。
たくさんたくさん食べた。
みんなで「おいしいね。おいしいね」と言って食べた。
鯉の頭。豪華な異国のテーブル。壺。椅子。ソファ。
父も奮発したのだろう。
もちろん、祖母も美味しいと言っていた。

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