応接間の < 琴 >/ましろ
 


あれから時が経ち、大人になって自分の稼いだお金で何度か萬珍楼へ訪れた。
やはり、料理も絶品でレストランの外観も室内も豪華だった。
けれど、確かにここに祖母ときたように万華鏡の中には入り込めなかった。

13年前、芦屋の家は壊れた。
潰れたわけではないけれど歪んでしまったらしい。
祖父も祖母も死んだ後で、誰も住んでいなかったからどうということはなかった。

芦屋の家には3回程行った。
洋風の応接間。
真っ暗でだだっ広い2階の寒い部屋で寝るのが怖かった。

応接間には琴がおいてあった。
洋風の部屋に日本の楽器はしっくり収まっていた。

そっと布の上から琴を触った。
[次のページ]
戻る   Point(1)