鬼の左手 (1/3)/mizu K
 
じこもり、闇のなかをさらに黒い異形の姿が、松明にゆ
らゆらゆらゆらしており、酩酊前夜の青白い女人の溺れたよ
うに冷えきった指先のごとき秋水でひとなでされたとき、鬼
の左腕はその後の感覚を忘れ、今ごろ気づいてみれば、まな
こからあふれるしずくをぬぐうことができないでいたのです

数えきれぬほどの子どものあまたのあたまをひとつひとつ喰
らいつくして、鬼は両の手をあかあかく、朱けに染めいし吉
野の山から洛京に流れてきたのでした

大路からずいぶんとはずれた、白蟻にくわれて崩れかけた木
戸がひしめく区画の一角の破れた格子戸の暗い穴をのぞいて
みれば、足の細った幼子がちりりちりりと鈴
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