暖かい黒水晶/蒸発王
凍てついた池を見ていました
朝日も眠そうな光
反射する光を
押し上げる
まつげ下の
黒水晶が
ふるり と震え
今
夫に訪れる
そのものの正体を
私は悟ったのです
私は隣りに座って
夫のくちゃくちゃの手を
ぎゅっと握り
金色に光る一秒一秒を見つめました
眠りに落ちていく
夫の瞳に
水面が放つ秋の光が
擦れて揺らぎ
その熱が
鉛光りする
まぶたの黒水晶を
くま を
ゆるゆると溶かしていきます
黒い涙が
夫の頬を伝い
凍りの湖にそそがれて行きま
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