食の素描#2/
 
れがこのバーを仕切る、彼の静謐な常態だった。

「かしこまりました。その前に、よろしければこちらを」

そう続くマスターの言葉は、
昨夜、あの夜に初めて放たれた。
喧々囂々と喚きあう四名の狂騒は、瞬時に鳴りをひそめた。

「マヨネーズの芳醇な旨味。塩と胡椒のストイックで凛冽な味。
 ソースの野蛮で、そして誰も抗えないあの芳香。
 いずれもいずれとは為りえず、為りえないからこそ、
 その芳醇さも凛冽さも芳香も成立する。
 
 ところで、
 そのいずれもの魅力にも属さない、もう一つの味わいがあるのです。
 お帰りの前に、よろしければこちらを」

四名の前に、一枚の皿が
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