食の素描#2/
 
とッ」

「それはうまいかもしれないッ」

「も、何これ最悪最ッ低ッ、ね、もー帰ろ、マスターお会計」


客の少ないバーだからこそ、
灯りと暗闇が交じり合う空間だからこそ、
静かに際立たなくてはいけない存在が居る。

それが、バーのマスター。
伏し目がちにグラスをゆっくりと磨きあげ、
流れるような白髪を揺らしながら客に杯を供する仕草。
そんな所作が嫌味にも高慢ともならず、ただ艶のみとして香り立つ。
彼の香りを味わいに、このバーに訪れる客も多かった。

常ならば、静かに伏せた目で伝票を取り扱い、
またのお越しを、との一声で客の酔いを最良のものと仕上げる。
それが
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