食の素描#2/
 

「豆腐じゃないっつのね」
「目玉焼きっていったらやっぱねー」

チン、とグラス同士がぶつかる音。
続いて、唱和する嬌声。

『マヨネーズでしょー』


客の少ないバーだった。
日照りというわけでもない。
適正な酒を、適正な価格で、適正な灯りの下で飲ませてくれる店だった。
客同士が暗黙裏に、店の存在をひた隠しにするような。
偶然店を発見した客だけがその僥倖に預かれる。
そして、そんな客達が赴く足だけで充分店は廻っていく。
そんな店だった。

昨夜の客は、
自分たちとあの女性客。四名だけだった。
片隅にあるテーブルに座っていたため、
おそらくカウンターの女性
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