食の素描#2/
 

笑いながら肩を叩き、皿に杯を重ねる。
足取りが覚束なくなる分だけ、
無闇に朗らかとなった心を抱え、
夜の街でいつの間にか別れている。
そんな酒を久しぶりに飲む筈だった。

「……でしょやっぱり」
「あー分かるそれ以外かんがえらんない」
「塩コショウとか」
「びんぼくさー」
「ソースとか」
「キモ過ぎ」

薄寂れたバーの片隅で静かに互いの胸倉を掴み合い、
空いた手でグラスの中身を互いの顔にぶちまけあっていた時だった。

耳朶を嬲るその言葉は、
酔いと怒りで混濁した二人の脳髄を前置きもなく刺し貫く。

「ケチャップとか」
「ありえねー」
「しょうゆとか」

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