八月、愛するものにもどってはならない/んなこたーない
ていないことと同義ではないだろうかと怪しまれる。
世に蔓延する平等主義は、イデオロギー的というよりもたぶんに心理的なもので、
敗北者のニヒリズムに発しているものなのであろう。
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以前はかれも一人前の男であった。
ひとりで服を着ることができ、ひとりで歯を磨くこともでき、ひとりでトイレに行くこともできたのである。
地球が丸いことや春の次には夏が来ることなどを、かれが知っていたかどうか、ぼくは詳らかにしないが、
少なくとも電話のかけ方くらいは知っていたし、子供の作り方も知っていた。
つまり、かれは一人前の男だったのだ。
友人が傷害事件を起こして、警察署に拘置されているとい
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