鉄塔を登る幽霊/錯春
 

   服がどんどん色褪せていき 吹き零れる
   体の内側から 
   花ちり紙でつくった大輪の芍薬が 惜しげもない
   涙が目蓋の淵をたどって 外気に触れると芥子の種ほどの
   完全な球体になり
   私の頬を覆い尽くすと 手摺りが その先にみえる
   大声を出しながら 涙を垂らしながら
   こんなにも離散する感覚は 生まれたあのとき以来だと
   懐かしく思う
   


   空にたくさん よく熟れた木苺色の風船が飛んでいく
   それらは鉄塔を登る幽霊にだけ 触れる距離まで飛んでいく
   登りそこねた私は
   相変わらず 君に抱きすくめられて
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