鉄塔を登る幽霊/錯春
その瞬間だけ 私は 生まれてきた
その瞬間だけそう思える
君の手はよく 肘から 上に向かって曲げられていて
その先にはよく 私の好きな
花
シャボン玉
風船
抱きしめてくれるそのときに 飛び立ってしまうので
私はそれを 凝視することができない
私の好きなそれらは
一定の高さまでになると そこでとまる
鉄塔を登る幽霊だけが
それらをみることが つかむことができる
鉄塔を登る幽霊は 慈しむ視線でそれらを撫でる
鉄塔を登る幽霊は 優しいさわりかたをする
鉄塔を登る
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