鉄塔を登る幽霊/錯春
 
をもたげる灯台が
   毛羽立った水面の下から
   長い睫毛をたゆらせながら こちらを見ている



   鉄塔を登るのは 決まって涙で濡れた瞳
   じゅうぶんに輝いていなくては足場はみえないから
   風すらもたじろぐ衝動で 情動で
   魚の骨と
   植物の茎と
   耐熱硝子に似ている
   
   吹き零れていくにまかせて
   空は
   晴れているのを見たことが無い
   少なくとも
   私が君を待っている間は



   待ちきれない 傘越しに灯台を睨む
   チューインガムさながらに 噛まれ
   吐き出されて 一瞥される
 
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